Tessey Ueno's blog

古楽系弦楽器を演奏する上野哲生のブログ。 近況や音楽の話だけでなく、政治や趣味の話題まで、極めて個人的なブログ。

2011/01

僕は小学校の時、学芸会で台詞を忘れて、劇が完全に止まってしまったことが2度もある。
なんぼ練習しても台詞が覚えられない。
人前でしゃべると、自分で何を言っているのか解らなくなる。

しゃべれないという事がトラウマになり、人前に立つともうそれだけでにらめっこの時間と化す。
それでも演劇は好きなのだ。 小さい頃から日劇にクレイジーキャッツを観に行って、コントの面白さは生で味わっていた。

中学校になったら、自分でしゃべらなくて良い演劇を作った。お笑いであるが。
人には台詞をしゃべらせて、自分は言葉ではない、「あー、エー、まーまー」とか訳のわからない言葉を発して、コミュニケーションを取ろうとしている。
ジェスチャーで隣の奴に意味を通訳させたり、耳打ちしたり、言葉に障害を持った役のようなものであり、突然浪曲になったり、笑いだけになったり、宇宙人の言葉になったり、めちゃくちゃであった。 コミックバンドも作った。(僕の生まれて最初のバンドはコミックバンドなのだ。)

当時出て来たドリフターズのパクリのようなこともやった。「バラが咲いたを演ります」といって、僕は一人だけヴァイオリンで「天然の美」を演奏する。
楽器を取り上げてもひたすら何かを持ち出しては楽器にして、「天然の美」をやり続ける。

それから何十年か経って、僕はマルクス兄弟の映画を観た。
とにかくイカれていて、素晴らしかった。
特に注目したのがハーポだった。
彼は全くしゃべらない。
しゃべらない分、自由奔放な動きだけで笑いをもたらす。
このハーポの凄いのはハープのテクニックだ。
ピアノをぶっ壊してその中身を取り出して、ハープにしてしまう。
機織り機の意図を触っているうちにグランドハープになってしまう。
当時の映画は映像と音が別録りのため、指と音がずれるのだが、明らかにちゃんと弾いている。
ただ弾くだけでは無い。僕が聴いた限りで最も魅力的で聴かせられるハープなのである。
まさにHarpoの名前はHarpから来ているのだろう。ふざけた顔をして、一言もしゃべらないハーポだが、ハープを弾く時だけ真顔になる。
MarxHarpo
こんなハーポと自分をついついダブらせてしまう。
自分もロバの音楽座で半分喜劇人のような部分を持ちながら、琴系の楽器が異常に好きである。
息子に「琴」の文字を付けたのは偶然で、付けたのはハーポの存在を知る前だった。

「琴」の名を持つ我が息子はハーポと似ても似つかぬ真面目な男だが、ハーポのハープを弾くときの目つきと同じ目をするように見える時がある。
今の世の中は便利で、彼らの全盛期の映像が瞬時にして観られる。

先ほど言っていたピアノをぶっ壊してその中身を取り出して、ハープにしてしまうシーンもここにある。
「A Day at the Races」という映画の一シーンだ。
 

クイーンのアルバムのタイトルと同じだが、影響があるらしい。
チコのピアノも変で素晴らしい。このシーンを観る度に山下洋輔さんを思い出すのは僕だけだろうか?

あけましておめでとうございます。 今年も動く年賀状を作りました。
笑えるし、とても評判がよいです。是非ご覧下さい。


2010年はちょこちょこといろんな事がありました。
ロバの音楽座は「らくがきブビビのコンサート」が厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財に選ばれました。
一昨年のキッズデザイン賞に続いての快挙でした。

個人的なことでは二十五絃筝の委嘱作品の依頼を受けました。
「水のうた~二十五絃箏とビオラ・ダ・ガンバのために」と題しまして、 ぜひ古楽器とのコラボでお願いしたいという事でビオラ・ダ・ガンバと二十五絃筝の合奏曲を作りました。

二十五絃箏は高橋はるなさん ビオラ・ダ・ガンバに神戸愉樹美さんのお二人が演奏されました。
コンサートは10/6(水) すみだトリフォニー小ホールにて 「全曲委嘱・初演作品による 二十五絃筝コンサートVol.3」と題されました。
今まで個人的に、箏曲合奏の委嘱を何度も書く機会がありましたが、二十五絃箏は初めてです。
二十五絃箏は音階の作り方や弦の数に於いて、私の演奏するプサルテリー(中世の箱琴)ととても似ている楽器であり、それによる即興演奏の断片を随所に鏤めて使っています。
西洋の古楽器であるヴィオラ・ダ・ガンバと合わせることは、和洋を意識せず、どこか懐かしい友との再会のようです。
難曲ではありますが、それぞれの分野の第一人者が、この作品にほぼ半年がかりで取り組まれ、私の知らないところでも何度も何度もリハーサルを重ねられ、その熱意と素晴らしさに感服しました。

おそらくたかだか一曲のために、これほどまで練習に取り組まれた事は聞いたことがありませんでした。
とにかく納得するまで練習する。多くの演奏会が1〜2回の練習でゲネプロ・本番とそんな行程が多い中で、こういった姿勢を見習って欲しいと思いました。
作品の評判もとても良かったのですが、やはりこの演奏があってのことだと思いました。
訴えかける何かが、色が、イメージが明らかに形となって現れてくるのだと痛感しました。
お二人に拍手!! この日は5人の現代作曲家の委嘱作品という事で、ちょっと想像するにハードな内容と思われますが、実に色々なタイプの作品があって良い演奏会でしたという声が多かったです。
下の写真は私の作品のゲネプロの模様です。 25gen_2

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