Queen→ペルシャ→日本について、多くの方が興味を持ってくれたみたいなので、図に乗って続編を話したくなった。
僕はペルシャ=西アジア地域は音楽家にとって最も重要な場所と捉えている。世界の楽器はあらゆる地域で自然発生的に生れているが、現代に至る重要な楽器の元は、多くはこの地域から生れていると言って良い。
先ず、この地域が如何に文化文明的に優れた人たちであるか知ってもらいたい。
皆さんはソクラテスやユーグリッドみたいなギリシャ文明をローマが受継ぎ、そのまま西洋に文献が残ったと思っている人が多いのではないか?
実は初期キリスト教徒からギリシャの書物を受継いだのはササン朝ペルシャで、ペルシャ語に翻訳され文化資産として受継がれていった。元々高い文明を持っていたペルシャの学問に融合し取入れられた。
この頃はまだペルシャ人の多くはゾロアスター教だった。
時を経て7世紀くらいにイスラム教=アラブが台頭してくるとペルシャに侵攻し、多くのペルシャ人はイスラムに改宗されたが、逃延びたゾロアスター教徒たちはインドや長安の都まで逃げ延びた。一部日本にまで来たことは前回お話しした。
イスラム化したペルシャはギリシャ文明もペルシャ文明も吸収し、元々あるアラブ文明を組合わせ、天文、医学、科学、思想、音楽まで含む全ての文明をまとめ上げた。全てはアラビア語に翻訳された。
その頃のヨーロッパは無法地帯で、ローマは時代と共に荒れに荒れた。キリスト教の様な啓示宗教(簡単に言えば悪いことをしちゃいけませんという宗教)が必要だったと思う。それによって秩序が保たれ、今のヨーロッパが形成されていった。
その文明の拠所にしたのが西欧の起源と言うべきギリシャ文明だったが、アリストテレスもプトレマイオスも全てアラビア語から翻訳された。12世紀、十字軍とアラビアが戦っている頃の話だ。
この話は一般の西洋史の本には絶対に出てこない。
以降、西洋は世界に侵攻しアラブ世界をも支配下に置いてしまう。まあ世界はご覧のような力関係でバランスが取れてしまった。
西欧がアリストテレス等の書物を知ると同時に、楽器や音楽の形態や理論も流れていった。これがカテリーナ古楽合奏団の演奏する古楽の時代で、ロバの音楽座が使っている楽器にも関係する。
結論から言えば現代の優れた楽器の基本形態は、殆どがペルシャ近辺で生れている。
ギターのように胸に胴体をあて、(右利きの場合)左手で弦を指板に押さえつけ、右手で弦を掻き鳴らす楽器は、何百年も基本的な構造がほとんど変わっていない。おそらく未来も生き続ける楽器の「種」であろう。
こういった弦を押えて音程を変えるギター系のシステムの最古のものは、ネックの曲がった古代ペルシアの「バルバット」という弦楽器とされている。それが東に伝搬したものは中国の「ピーパ」日本の「琵琶」。西に伝搬したものはアラビアの「ウード」西洋の「リュート」と変わる。この弦楽器の伝搬は、さながら現人類=ホモサピエンスがアフリカに住んでいた一人のイヴから始まり、その子孫が世界の至る所に流れていったのとよく似ている。
ギターはリュートの胴体を平らにしたもので、同じ血を分けた分家と言えるだろう。自然発生的な楽器も多々ある中、もし楽器というものにDNA鑑定が可能なら、この種の楽器の伝搬と影響を詳しく調べてみたい。
他にもこの土地から生まれた特徴的な楽器は打弦琴(サントゥール=西洋で鍵盤が付いてピアノに変っていく)、箱形琴(プサルテリーのような楽器=チェンバロの前身)、タンブール(後にマンドリンや三味線に展開していく)、壺太鼓(ダルブッカ)とあるが、実は全て僕の得意なものばかりがここから生まれている。
さらに弓奏の楽器(ヴァイオリンの元)や笛系(これは自然発生的なものとの区別は難しいが)を挙げ出すときりが無いが、少なくとも数学・科学などの高い学問から作られる楽器は相当質の高いものが出来ていたに違いない。
ぶっちゃけた言い方だが、もしペルシャが存在しなかったら、ブライアン・メイやジミー・ペイジはギターというものを演奏していなかった。ビートルズもセコビアも違った表現媒体の音楽となり、20世紀の音楽シーンは大きく様変りをしていたろう。
このペルシャで楽器を発明した人たちはどんな人たちだったんだろう。ここからは僕の空想の世界になる。
イエスの降臨を予言した東方の三博士の話でも有名なあの聖職者たちのことをマギという(単数形はマゴス)。この人たちはゾロアスター教の聖職者階級で、天文、医学、呪術、幾何学に優れ、ペルシャ文化の礎となっている。マギはマジックの語源でもあるところが興味深い。
西洋音律理論の基盤を作ったと言われるピタゴラスは、30際の頃から約30年にわたって世界各地を放浪することになるが、よくマギとの接触の可能性を言われている。
このギターの先祖を始め優れた楽器の発明者達は「マギ」だったのではないか?
ピタゴラスが、世界各国を廻ったときに様々な世界の楽器に興味がなかったはずはない。ゾロアスター教の聖数は「7」だが、ピタゴラスにとっても「7」は聖なる数で、西洋音階の基本数も「7音」。
おそらくマギたちの音楽理論も確立していて、その神秘的宗教奥義には、後の基督教や仏教同様、音や音楽そのものが単なる宗教効果だけではなく、神との橋渡しを担い、当然様々な楽器達が作られ試行錯誤し、淘汰していったことと思われる。
ピタゴラスが音律を調べたのは「モノコード(単弦の弦楽器)」と言われているが、音律を調べるなら2弦以上ある弦楽器だろう。ギターのように箱に駒のあるしっかりと固定された減衰音の長い楽器ではないと、共鳴の状態は解らない。
ピタゴラスの楽器は、教団の迫害、弾圧とともに消えてしまい、マギの実態も密儀で本質は外に漏らさない為、本当の事は何も解らない。しかし、今僕が弦楽器に夢中になるのはマギの仕業ではないのか?
マギがいなかったら世界の音楽はまた違う方向に行っていたかもしれない。そんな魔法使いのような影響力の強い人々に敬意を表して、自身のレーベル名にも「MAGI」の名を使わせてもらった。
インドに渡ったゾロアスター教徒=パールシーの末裔にフレディ・マーキュリーや指揮者のズービン・メータがいる。
長安の都までやってきたゾロアスター教徒たちの一部は日本に来て優れた建築などに相当貢献している。「日本に来たペルシャ人」などでネット検索をかければ、親切な歴史愛好家がかなり詳しく教えてくれる。
ここに全てを書き表わすことは出来ないが、マギの末裔はとてつもなくエネルギッシュな印象がある。智恵もあり徳もあり一筋縄ではいかない彼らの生命力は、多くの日本人の僅かな血の一部として活き?づいているのではと思ってしまう。
フレディはイギリスに渡った時ずいぶん差別されたらしいし、日本も渡来人は随分と差別されてきた歴史があるらしい。
でも歴史を紐解けば全く逆な立場だった。数百年前まで西欧は後進国だったのだ。差別したり争ったり、やれ制裁だ、移民だ等と言合っている輩の何と多いことか。
少なくともどんな民族でも何万分の1かは共通した血が流れている可能性があると言うことを忘れてはならない。