Tessey Ueno's blog

古楽系弦楽器を演奏する上野哲生のブログ。 近況や音楽の話だけでなく、政治や趣味の話題まで、極めて個人的なブログ。

2019/11

東京国立博物館にて  前期展示:2019年10月14日~11月4日 後期展示:2019年11月6日~11月24日
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まあ、予想していたものの、入るまで2時間待ち。
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御即位記念、皇室が守り抜いた、などと冠が付いて尚更の混雑ぶり。元々東大寺の一部なんで聖武天皇は関係あっても、宮内庁管轄は明治以降だから、そこまで皇室をうちだしたものなのか?
なんせリュートの先祖と兄弟の琵琶がずらりと並ぶので、これだけは見逃せない!

26歳の時、古楽器のルーツとなる中東=シルクロードを体験したくて、原付バイクを飛ばして正倉院と国立民族学博物館に向った。正倉院は当然だがガンと中には入れてもらえなかった。
正倉院は博物館のように何時でも誰でも入れると勘違いしていた。呆れた顔をされた。 
9000点ある宝物の中で年に一度だけ展示があり、そこでせいぜい70点程度しか(毎年替る)公開されない。まあそれだけの慎重さがあるから1300年もの間無事に保存されていたのだろう。 
今回、たまたま休みの時に行くことが出来た東京で開催された2時間待ちの正倉院展だが、憧れていた白瑠璃椀や竜首水瓶の本物にあって、初めてなのに懐かしかった。楽器はパンパイプもあった。
法隆寺を含む110点の宝物は数としては少なく感じた。歴史がひっくり返るような秘密の宝物もあるのかも知れない。
 
リュートの先祖と兄弟の琵琶がずらりと並ぶと期待していたが、実際には4弦のリュートのようにネックが折れ曲った紫檀木画槽琵琶が当時のものとしては一つだけで、5弦の折れ曲っていない螺鈿紫檀五絃琵琶は明治時代のレプリカだった(11月4日までは本物があったそうだ)。紫檀木画槽琵琶は8世紀の中国生れで、螺鈿紫檀五絃琵琶はインド産だと言われている。
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それでも本物と出逢えて良かった。4弦の紫檀木画槽琵琶はそれでも保存状態が良く、驚くほど響板と弦の間が狭く、エレキで言えばレスポールの様に弾きやすそうだ。ここはやはり生で見てみないと解らない。阮咸(げんかん)という丸い胴体の琵琶もあったが、これもレプリカだった。
 
元々琵琶の原型はペルシャのバルバットという現存しない幻の楽器で、確実なのはネックが曲っているところと、響板に張付いた駒から弦が張られている。
その特長を保ち、西に伝搬したものがアラビアのウード、それがヨーロッパに渡りリュートになる。さらに東に伝搬したものが中国に渡り、やがて日本の琵琶になる。
似たような経路を辿るのがやはりペルシャ生れのセタールだ。西に行けばトルコのサズ、ブズーキ、長竿マンドリンの系統になる。東に行けば中国の三弦、そして日本の三味線となる。
「se」は3.「tar」は弦を表す。「ギター=guitar」もちゃんと弦の意味のtarという言葉が入っている。

で、この実物を見て、なんでもペルシャに結びつけたがる僕が閃いたことがある。確実な根拠も確信もないので戯言として聞いてほしい。
琵琶はバルバットが中国に渡りピーパーになり、それが琵琶になった。これが一般的な説だ。
でもインド生れの螺鈿紫檀五絃琵琶はとてもピーパーに似ている。
4弦琵琶と言われる紫檀木画槽琵琶は8世紀頃中国で使われはするものの、直接ペルシャ人が持込んだものではないか?
 
さらに、インド生れの五絃琵琶は元々ペルシャから来たものの、こちらは大分前に中国に渡り今のピーパーになったのではないか。(長安に来たバルバットが、同族楽器のようなピーパーの名前を貰い日本で琵琶になったのでは?)
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前にも述べたことだが、ササン朝ペルシャはマホメットの出現でイスラム教徒に滅ぼされる。644年、つまりほぼ日本の大化の改新の頃だ。その後、中国、特に長安は逃げてきたペルシャ人で一杯になる。鑑真がペルシャ人の僧侶をつれて日本に来たのが753年。これを期に李密翳(り・みつえい)、破斯清通(はしのきよみち)など中国から沢山のペルシャ人が日本にやって来ている。
 
そして756年あたりから正倉院の基盤が出来てくる。白瑠璃椀や竜首水瓶もペルシャから来た事が定説になっている。多くの宝物がペルシャから来ているなら琵琶も直接ペルシャ人が持っていたものと考えて何が悪い?
中国ではネックの曲った弦楽器はそこまで多く描かれていないのでは?
 
写真の薩摩琵琶、筑前琵琶などがこの正倉院の紫檀木画槽琵琶からほとんど変っていない。三日月孔までほとんど変っていない。それだけ完成されたものだと言えるだろう。
正倉院と言えど、やはり全体的な宝物の損傷は思いの外激しい。1300年の時は重い。それでもこうして多くはそのままの形を留め、過去からのタイムカプセルの役割をしてくれている。在ると無いとでは僕にとって大違いだ。 


 


青年時代に強く影響を受けたエマーソン・レイク・パーマーの3rdアルバム"Trilogy"に入っていたfugueという小品がとても好きなのですが、タルカスや展覧会の絵のようにはあまり世間には知られていない気がします。PCを扱うようになってから何時か違う音色でこの曲を再構成してみたいと思っていました。(フーガとなっていますが、実際にはプレリュードとフーガなのでしょう。)

当時なかなかこの曲の楽譜だけはなく、耳コピで出来るような代物ではありませんでした。最近は海外のmidiサイトから手に入ることも出来るようになり、幾つか間違え等を検証しながら自分が正しいと思う音に調整して行きました。

キース・エマーソンが3年前亡くなったとき、追悼でこれを作ってみたかったのですが、なかなか時間が取れず完成直前でそのままになっていました。

実際にハープで演奏するには相当のテクニックが要ると思いますが、これを弾きたいというハーピストがいらっしゃれば、楽譜を作成してお渡ししたいです。

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