NHK大河ドラマ「麒麟が来る」で坂東玉三郎さんが正親町天皇を演じた。
僕が知る限り玉様にとって初めてのテレビドラマ出演だったと思う。
兎にも角にも今まで観たドラマの中の天皇としては気品と言い風格と言い、次元が違うと感じたのは僕だけではないと思う。
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言葉の発音の丁寧なこと、抑揚、目線の拘り、完璧であり美しい。吉田鋼太郎、滝藤賢一、染谷将太など上手い役者が色々居るが、さすがに霞む。
おそらく堺正章演じる東庵も存在はしていないキャラなのだろうから、共に碁を指すなどフィクションの世界な訳だが、台詞の一つ一つの背景に風景が浮んでくる。特別な表現をしているわけでなく丁寧にに語っているだけなのに。
自分が音を奏でるなら、こう言ったことを目指したいと思った。
ご存じの方も多いが、1986年と88年、玉三郎さん初演出の「ロミオとジュリエット」でカテリーナ古楽合奏団が楽師を努めた。がりゅうさんと僕に楽師としての台詞もあった(一言だけシェイクスピアの台本にもある)。
稽古場で音楽の打合せは何時もがりゅうさんが玉さんと直接していたが、僕が稽古場に入る前に桂花ラーメンを食べたその日に限ってがりゅうさんは遅れてきて、僕が玉さんと直に打ち合すことになった。豚骨のにおいをぷんぷんさせながら玉さんと喋ったことが僕の人生の最大の失態となって悔まれる。
演出する際もこちらの古楽器のことも勉強されていて、「今のサックバットのタイミングが遅いです」と専門外の音楽のことまで事細かく指摘された。
台詞に関してはそのままで良いですよと優しく言われた。
エピソードには事欠かないが、玉さんのアーティスティックな精神は誰もが見習うべきだし、この域に達して始めて芸の道で満足を得られるものがあるような気がする。ドラマのこの短い時間の演技を観ただけでも襟を正す気分にさせられた。
 
玉さん 1
 ロミオの公演が終ってお願いした1枚。顔の大きさがこんなにも違う(特に当時は10kg以上太っていた)。