Tessey Ueno's blog

古楽系弦楽器を演奏する上野哲生のブログ。 近況や音楽の話だけでなく、政治や趣味の話題まで、極めて個人的なブログ。

2022/06

たまに「古典芸能への招待」(日曜NHK午後9時から)を観ると、日本の文化の凄さに大きなカルチャーショックを受けることがある。
一昨日放送していたのが狂言師の人間国宝2人の舞台だが、この映像は僕のほぼ50年前に狂言に取憑かれた自分を思い出させてくれた。僕は20歳の時に世阿弥の奥義に感銘を受け何度か能を観に行った。実際に能は素晴しいものだったが、それ以上に狂言師の所作や立回りがとても気に入った。本来の笑いの起る様な狂言ではなかった。昔はどうだったか解らないが、現代の狂言師は動きの面白さより緩やかで超自然的で、能楽師の演じ方より何歩か先を進んでいるのではとその時は思った。
僕はとても狂言に憧れ、音大時代に狂言オペラまで作って上演した(ふじたあさや氏の原作)。ろくに知りもしない狂言の言回しやスタイルを模して、今思えば身の程知らずもいいとこの上演だった。評判は悪くなかったものの、一時僕は狂言から手を引いた。
それから半世紀近くも経って、一昨日のテレビの狂言を観て全てを思い出した。あの時、能より狂言の方に興味が沸いた訳を。あの時の狂言師が今回の国宝=野村万作だったのだ。
当時立っているだけで自然の中の木立、あるいは流れる川の石、自然界の動物、演ずる全てが何よりもおおよそ人間ではない何かなのだ。それは目を見ただけで人間ではない何かになりきっている。まさに「風姿花伝」の極意がそこにある。
「ああ、確か半世紀前、この人を観て狂言に憧れたんだ。」と言うことを思いだした。
 
万作1
この日の演目は「釣狐」。91歳になる野村万作氏の演じる狐は、狐の面も取払い、目つきとゆっくり動く中に突然の機敏な所作、動きに一切の躊躇もなく何かに突然向っていく、そしてこの世の声とは思えぬような雄叫び、どう見ても今いるこの世界は狐から観た世界観で、釣人役の息子=野村萬斎が奇異な程に人間なのだ。もちろん人間の役だから人間なのは当り前なのだが、それが違和感を感じるほど、辺りが狐の世界の空気に変っている。
こんな風に感じるのは僕だけなのかも知れないが、間違えなく昔この演技に心を動かされた。しかもあれから50年、更にある域まで到達してしまった感がある。しかも映像は昨年90歳の動きだ。走り回るような演技ではないが、動作から動作への溜めを作らないのは獣そのものの動きだ。人間とはここまで成れるのか?
万作2 
自分に投影してみると、あと20年であの10分の1でもなにかそう言ったもの凄い空気感を醸し出せる存在になってみたい。もちろん動きではない音だけの話しだが。
まあそれだけ西洋のキチンと割切った文化より、日本文化の方が自由で何でもアリなような気がする。特に能狂言の世界は。
この番組はNHKプラスで(登録は要るが無料で)7月3日まで観る事が出来ます。
写真は映像からはハードコピーは撮れないので、ディスプレイをカメラで撮りました。

東京新聞、夕刊ではありますが、一面トップに7月12日の早稲田での乱入ライブの事が取上げられました。申込抽選会は終ってしまいましたが、ライブ配信では観ることが出来ます(有料)。
山下洋輔乱入ライブ早稲田


改めてこの初期メンバーの凄さを教えられたのはBS231(放送大学)の「日本人にとってジャズとは何か」で山下トリオの初期メンバー(サックスは坂田明さんですが)でトリオのジャズスタイルを解剖していく番組がありました。この番組の面白いところは、確かに日本人は西洋の様々な音楽をやっていますが、山下トリオが「普通のジャズをやっていてもしょうが無い、如何に自由に自分たちにしか出来ない音楽をやっていくか」と言うことを模索していく過程をそれぞれのメンバーが解説していきます。
坂田さんはそれまでジャズのスタンダートを吹いたこともない様なキャリアで、自分にしか出来ない、これなら出来るという事を山下さんに「それで良いのだ」とバカボンのパパのように認められ、森山さんも全く自分にしか出来ないようなリズム分割をやったり、他のバンドでは到底認められないような技を「それで良いのだ」と認め、世界の何処にもないスタイルを生みだした。これが世界進出できる日本人のジャズに他ならないでしょう。
番組ではもう80近い3人のレジェンドが生み出す音は、1969年に箱根のロックフェスティバルではじめて聞いた時を彷彿させる、(それは年齢を重ねて当時と同じパワーでは無いにしても)本物はここにあるんだという事を証明するかの如く、心揺さぶられるものがありました。
番組の放送の方は何度か再放送していますが、明日6/11(土)21:00〜と21:45〜の2回にわたって再放送します。

日本は本当に西洋の様々な音楽を取入れていますが、自分たちの形にすると言うことはどういう事なのか、そう言った意味でもとても興味深い番組です。
早稲田での6/12 のライブは申込は締切りましたが、配信では観ることが可能です。
新聞記事にもありますが、当時のライブには田原総一朗まで関わっていたんですね。面白い時代でした。

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