2023/12
ミュージカル「奇蹟の朝に(フランダースの犬より)」
栃木県茂木町を拠点に活動するアマチュア演劇団体「もてぎde演劇を創る会」は、結成10周年を記念し、来年3月に茂木と益子で脚本・演出:江藤寛 作曲:上野哲生、ミュージカル「奇蹟(きせき)の朝に…」を再演する事となりました。
2019年に大田原と茂木で上演して大好評を得て以来5年ぶりの再演となります。キャストにプロも一部加わって歌と芝居に厚みを加えていますが、初めて舞台に立つ人も多いのです。それでも言いしれぬ感動があり、昨年の作品も茂木、益子などのホールで4ステージくらい演ったのですが、噂が噂を呼び昨年もほぼすべて満席になるほどでした。
脚本も詞も音楽も評判が良く、自信を持ってお薦めできる作品です。初演時のプロモーションビデオもあります。ミュージカルの様子と懸ける熱が伝わります↓。
レ・ボレアード
とにかく素晴しい舞台だった。練習時間と衣装、舞台道具、舞台照明等にもっとお金をかければ更なる完成度の高い舞台になったと思うが、昨今の音楽事情を考えればこれが日本の現段階で出来る最高の舞台だと思う。
毎年の事だが、ダンサーの踊りは語り尽くせないほど素晴しい。バロックオペラはストーリー自体は5分くらいで語れる程度の内容だが、大半は叙情詩の歌と踊りで出来ている。ロマン派のオペラのように叙事や説明が歌になるようなことは多くはない。演奏、歌、踊りが比重としておおよそ1:1:1くらいの割合である。休憩を入れた上演時間が全5幕 3時間15分と。ワーグナーほどでは無くてもヴェルディやプッチーニなどのオペラよりは長い。
とにかく、その3割近くを4人のダンサー(当時は4人とは限らない)の踊りが占めているわけだから、もの凄く大きな比重だ。それは単なる動きでは無く、それぞれの拍の中で、まるで鳥が短く弧を描いてジャンプして木に止るまでの加速減速が音の減衰にぴったり合っていて、それが何とも言えない優雅さを出しているのだと感じた。それはオイリュトミーが音を表現するより遙かに(技術があるからだろうが)空気の流れに従順で、より音楽を視覚化してくれる。
申訳ない言い方だが、合唱団が賢明にぎこちなく動きを付けているが、それと対比して見てしまう。(合唱団は歌は素晴しいので。)
今回、ラモーの素晴しさも新たな発見だった。実は僕が大学時代に中村太郎先生に付いて和声学を習ったのはラモーの和声理論だった。現代において一般的な和声理論はモーツアルトの時代くらいのものだが、ラモーはほぼバッハと同じ時代だ。ハーモニーが理論化された最初のものと言って良いかもしれない。なぜハーモニーが自然の生まれたか、そう言った事から始ったと思うが、二十歳前の僕にとって課題をこなす素材でしか無く、このラモーを実際に聴こうとまで興味が無かった。ただ音程と言うものに重力が存在し、この重力が一度不協和に緊張状態になり、それの安定して収る方向に終息するという、全ての西洋音楽の構造を感じ取った意味は大きいと思っている。
実際にレ・ポレアードでは前の和音の音が残り次の拍で解決するという「掛留音」が多く使われていたと思う。出来るだけギリギリまで安定させない意図だろう。この掛留の具合とダンスの終止感が絶妙で、4人のダンサーは恐らくそれを感覚的に受け止めて、終止音とダンスの終止が絶妙の具合で合う。ここが今回の公演で最も素晴しいアンサンブルと感じた。
後、オーケストラで特徴的なのはロマン派以降によく使う、一番派手な部分でストリングスが細かく低い音から高い音まで一気に駆上がる(ジョン・ウイリアムスでT・レックスがいきなり目の前に現れるときの効果に使う)衝撃波が押寄せるような効果を多用していた。こう言った映画的な効果音の様な使い方はあまりバロック時代にはなかったと思う。
ソプラノとテナーは直線的な声でハモると素晴しい響きをする箇所が幾つも有った。ただバリトンからバスにかけての歌手は少しヴィブラートが強く、3度でハモるところがよく解らないところがあったが、これがロマン派だと思うとこんなものかと思うが、もう少しヴィブラートを抑えた線の細い表現をして欲しいところも幾つかあった。まあこれだけオケが埋めるように音を出している中ではそのくらい吠えないと声が伝わらないのかも知れない。
ロバ牧場
まあロバの知識はあっても、それは想像上のユニコーンやドラゴンやエルフに近い、とても観念的な神々しい存在だった。
自分ではどんな動物か説明も出来るし、実体験が無くても情報として「ロバの歌」に歌われている性格などを感覚的に解っているつもりだった。
今回、ロバの音楽座の尾道ツアーで、尾道のロバ牧場に行く機会があった。
主人は「プラテーロとわたし」に影響されたと言っていたけれど、まさにあの詩の感触そのままの感じがした。
ロバは色々な性格があり、接していると本当に人間の子どものように我儘でやんちゃで可愛い。
宿泊施設もあるので、近くに行った人はぜひ寄って欲しい。ロバを好きになること間違えない。
HPには写真家の娘さんの撮った綺麗なロバの写真が沢山載っている。